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  • 執筆者の写真: 耳ず
    耳ず
  • 7月31日
  • 読了時間: 9分

更新日:8月1日

以前話した、最近読んでいる事件のルポルタージュ的本の話です。

気分が悪くなるどころではないので、こういった話が苦手な方は読むのを控えてください。







『栃木リンチ殺人事件: 殺害を決意させた警察の怠慢と企業の保身』黒木昭雄著 2005.9 新風舎発行


この事件は、被害者が加害者3人(後に1人加わり4人になる。殺害後、後から加わった男ーー高橋ーーが自白し明るみになる)から脅迫、拉致、監禁され、長期間にわたる暴行を受けた末に殺されたものである。

被害者は温厚で真面目な青年であり、母親からのエピソードで「こんなところにいたら叩かれてしまうよ」と言って虫を外に逃してあげるほどの優しい人格の持ち主だった。


正直、北九州監禁事件と並んで読み手を恐怖させるものであり(被害者のことを思うと何と言葉にしたら良いか、怒りやら悲しみやら…やるせやさが込み上げる)私も読んでいて、手や足が震えて仕方がなかった。


なのでもう二度と読みたくない。

一度読んだ時の記憶を頼りに記載するので、正確さに欠けることをご了承いただきたい。

詳しく知りたい人は上記の本を読んでみてほしい。



この事件は、藤原、植村、松下の加害者3人が、被害者須藤くんの良心に付け込みお金をむさぼるところから始まる。

彼らは、会社で働く須藤くんから得られるお金の旨さに、須藤くんを離さまいとあれやこれや因縁をつけ、時にはお礼すると言ってパブやキャバレーに連れて行き、酒を強要したり、髪をザンバラに切ったり剃ったりしていた。


加害者たちの笑い声の中で、須藤くんが感じていた恐怖を思うと…苦しいなんてものではない。お腹が痛くてしょうがない。

無理に愛想笑いをしていたのだろうと…想像する。


ある時、酒を無理やり飲まされ気を失った須藤くんは、失禁してしまった。

困った加害者3人はホテルの浴室に彼を連れ込み、シャワーを浴びせかける。

この時、シャワーがたまたま熱湯であった。すると、須藤くんは飛び起きて「アチ!アチチ!」と声を上げた。

彼らはその反応を面白がり、この日を境に、須藤くんに熱湯シャワーを3人で浴びせかける行為が始まった。

彼らにとっては何でもない、遊びとして…。


北九州監禁事件の通電もそうだったが、偶然起きたことを加害者が面白がり、「楽しみ」として被害者を痛ぶる様はあまりにも酷い。

安直な言葉しか言えないが、この地獄は本当に筆舌し難い。


彼らは遊びとして、(マッチの火に向かって殺虫剤を吹きかけることでできる)火炎放射器を作り須藤くんを火攻めしたり、前述の通り熱湯攻めしたり、殴る蹴るの暴行、尿や精液を飲ませる、毛を剃る等……ありとあらゆる暴虐をした。

須藤くんの皮膚は赤く腫れ上がり、ベロベロに剥げ、膿でジュクジュクした状態になった。それでも上記の行為を止めず、彼の体は殴る蹴るの暴行も加わって変色していった。


須藤くんが、彼らに金をせびられてから2ヶ月の間にこれらが行われた。

加害者たちは須藤くんの名前で友人知人から金を巻き上げ、両親は息子に何かが起きていると気付き、助けるために金を振込み続けた。

金を送っている間は殺されないと思ったからだ。


また、両親は警察や息子の働く会社におかしなことが起きていると訴えかけた。

しかし誰も取り合ってくれなかった。

いくら証拠を用意しても、事件が起きないと動かないと言われ蔑ろにされた。

会社からは、職務怠慢を理由にクビにされた。


会社は企業イメージがさがることを恐れ、警察は保身に走り、助けての声を無視したのだ。

両親は県内の様々な警察署に駆け込み息子を探してほしいと訴えかけたが、それでも動かなかった。

16回も訴えかけたのに。独自に調査をし、時系列毎にまとめた資料を作成したり、証拠になるだろう彼らの車のナンバーをメモしたり、銀行の防犯カメラ映像もいざとなれば差し出せる用意をしていたのに。

動いてくれそうなものはなんでも両親が用意した。

それなのに、それでも警察は動かなかった。



加害者のうちの1人、支持役の男、藤原。

彼の父が警察官だった。

また、被害者の須藤くんの職場の上司も元警察の人間であった。

なぜテコでも警察が動かなかったのだろうか?

そこに彼らの影響があることは一目瞭然であり、実際そうだった。


私はあまりにも胸糞が悪く、怒りをどこにぶつけて良いやら腑が煮え繰り返った。

なんなんだこれは。

腐ってる。腐りすぎている!


後に加わった加害者、高橋が他県の人間で、県外の警察に自白したからこの事件は大きく動き出したが、それがなかったら、事件は隠されたままだったかもしれない。


ただでさえ胸糞悪いのに、本来動くべき警察の体たらくを思うと本当にやりようがない。


本当に恐ろしい。

自己保身のために、なかったことにしようとする人間がいたこと。

見殺しにしようとする人間がこんなにもいたこと。


ーーーきっと、警察や企業人は「そんなつもりはなかった」と言うだろう。


それは、責任逃れの言葉かもしれないが、あながち当人の気持ちとして嘘ではないのだと思う。人間はそんなつもりがなくてもこんなことができるのだ。


自分の身の回りに起こる小さなこと、小さな感情を拡大解釈して考えれば、心の機構として、その働きは分からなくはないのだ。


私には後悔していることがいくつもあるが、一番新しい後悔を一つ共有したい。


去年の冬のことだ。

寒い朝の日だった。

私が仕事に行くために駅まで歩いていると、5人の集団が大きな声を上げながら、対向車線の歩道を歩いていた。

男4人。女1人。

シラフでは考えられないほどの大声だったから、酔っているのは一目瞭然だった。

5人のうち、1人の男はこんな寒さだというのに腹を出して、袖と裾はできるだけ上げられて、まるでチアガールのような格好になっていた。

さらに、意識がないのか、2人の男に両脇を抱えられながら運ばれていた。

男たちは「重め〜な〜!歩けよ!おいー!」みたいな声を上げ、ガハハと笑いながら歩いていた。

その側を女の子が荷物を持ちながら、笑顔で着いて行っていた。


私は恐怖を感じた。

真ん中の男の人の容体があきらかにおかしいからだ。こんなに寒いのにそんな薄着の格好をしているのも、意識がないのもそうだが、何より顔色だった。

彼の顔色はまるで死体だった。

紫というか土色というか、正気を感じられない色をしていて、私は彼が呼吸をしているのか不安で仕方がなかった。


いつも通り駅への向かう道を歩くと、横断歩道を渡って、彼らに近づく形になる。

私は近づいた時に、一声かけるべきか葛藤した。

5人の集団、4人が男、大声を出す、酔っ払い…それらへの恐怖が、もし声をかけて怖いことが起きたらどうしようと声をかける勇気を阻んだ。

それと同時に真ん中の男の人が死んでしまったらどうしようという不安にも襲われていた。

頭の中で、今から仕事だから彼らに構うと遅刻するかも、とか、今から病院に運ぶところなのかも、とか、いや救急だけでも呼ぶべきなのかも、とか、一声だけかけようか…といった様々なことが頭を巡った。結局どうしたら良いのか判断のつかないまま…私は彼らに近づいて行った。


その時、1人のおばあちゃんが彼らに声をかけた!

「アンタ!大丈夫なの?」

「あーおばあちゃん邪魔邪魔!邪魔だっつ〜の!」


彼らが、優しい、優しい優しい勇気あるおばあちゃんをシッシッと払い、笑う様を見た。

それを見て私は怒りが湧くと同時に、彼らへの恐怖が増した。そして、一言でも声をかける。そんな勇気がポッキリと折れた。

もし、あんなふうにされたら怖くて怖くて仕方がない。

私は、何もせず、スタスタと横を通り過ぎて駅まで歩いた。


電車の中で、私は恐怖していた。

結局あれはなんだったのか?

彼は大丈夫なのか?

そもそもなんの集まりかのか?

どこに向かっていたのか?

色々な疑問が私の胸を暗くした。

私は特に、真ん中の彼の状態が気になって、ネットで症状を調べた。

すると「急性アルコール中毒」だと分かった。


厚生労働省:急性アルコール中毒


これは1、2時間以内に対処しないと死んでしまうらしい。

私は、あの時、男の人は無理でも、荷物持ちをしていた女の人に声をかければ良かったんじゃないか?最初からこの知識があれば、「その人急性アルコール中毒ですよね?」と声をかけて早めに処置を受けられたかもしれない…と強い自責の念に駆られた。


結局その人がどうなったのか、通りがかっただけの私には分からない。

だけども、この時の心境を拡大解釈すれば、保身に駆られて、人を見殺しにする人の気持ちも理解できなくはない…。私にもそんなことをしてしまう種が含まれているのだ。


勿論事件に関わった警察の責任はそんなものの比ではない。治安を守るための警察がそんな心境に負けて職務を怠慢した等あってはならないことだ。

市民と警察が信頼で結ばれていなければ、治安は守れない。

その警察が信頼を裏切るようなことをしてはいけない。それは大前提だ。


だけども、この事件を見ていると、通りがかりの人間でも、須藤くんの様子がおかしいと気づいて声をかけていたら…何か変わったかもしれないと…少しの通りがかりの人にも期待せずにはいられなかった。


被害者は精神を木っ端微塵にされていて、何も自分を助ける術を持っていない。むしろ、加害者に洗脳され、自分こそが悪者だとドツボにハマっている可能性もある。

だから、外野の安全圏にいる私たちが気がついて、傍観しない勇気を持つことが必要だと思う。


最近この事件に似た事件が発生していた。


「もっとカネあんだろ」熱湯かけるなど…逮捕監禁致傷の疑い 建設会社社長ら7人を逮捕


同じ事件についての記事(7/31のもの)



これは誰かが通報してくれたから、命があるうちに助かった。もしこのまま続いていたら被害者は間違いなく亡くなっていた。

(須藤くんも、殺されなくてもこの虐待の中で死んでいたと司法解剖で言われている。循環器が異常を起こしていたのだ)


……もし、生きていても、こんな辛いことの果てに命が繋がってトラウマが酷くて苦しいだけじゃないかと思うかもしれない。だけど、それでも、栃木リンチ事件の両親の心を思うと、死んでいた方が良かったなんてことは絶対にない…と思う。

本人がそう思ったとしても、周りが「死んでた方が良かったね」なんて言うのはおかしな話だからだ。

生きててほしいに決まってる…。



そもそもこんな酷い状態になるのを防ぐためにも、どこかおかしいと思ったら、声がけするなり、通報するなり、自治体や警察の相談ダイヤルに連絡するなり、傍観しない勇気を持つことが大事だと感じた。


今でもあの時どうしたら良かったのか…ぼんやりしてしまうことがあるが、もし同じことが起きたら「急性アルコールですよね?」と女性に声をかけるだけでもしたい…!と思う。

勇気を持ちたい。

まだ、正直ハードルは高く感じるが…、あの時のおばあちゃんを見習いたいと思う。


そういった判断力、勇気を養いたいと、強くこの事件を通して思いました。



(ただし、身一つで直接介入するのは、ほとんどの場合危険です。私は家族間の殴り合いに仲裁で割って入ったらボコボコにされました。赤の他人の喧嘩の仲裁も同じ結果になると思います。話が聞けそうな状況であれば、声がけしても良いと思いますが、そうでなければ通報したり、相談ダイヤルに聞いてみたりするのが良いと思います。)



緊急時のお役立ちサイト.電話番号一覧


NTT東日本.電話の3桁番号サービス



皆様もご活用ください。


長くなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。

 
 
 

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